2022.07.25
ぶどう膜炎
この記事の執筆者
熊田充起 くまだ眼科クリニック 院長
常日頃意識しているのは、「治す眼科医療」をめざすこと。日帰りでの白内障手術を数多く手がけるほか、緑内障の早期発見や小児眼科など、幅広い患者様のニーズに対応。
ぶどう膜炎は一般の方には聞きなれない病気ですが、決して珍しい病気ではありません。目だけしか症状が出ない場合や全身的な病気を伴う場合があります。原因は、膠原病、感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍など様々です。検査は、全身の病気が原因になることがあるため、他の診療科での検査が重要な場合があります。
また、治療薬で使われるステロイドにより、白内障や緑内障を合併することがあるので注意が必要です。
原因になっている病気によっては、長期にわたる治療が必要になることも珍しくありませんので、「指定難病」の場合は、医療費の助成が受けられるので確認が必要になります。
【ぶどう膜炎とは】
ぶどう膜とは、虹彩・毛様体・脈絡膜という3つの部位からできています。日本人の目が茶色に見えるのは虹彩のメラニン色素が多いからです。メラニン色素の薄い白人の目は青色に見えます。ぶどう膜は色素が多いのが特徴ですが、血管が多いのも特徴です。
血管が多いと炎症が起きやすいため、ぶどう膜は炎症が起こりやすいです。
ぶどう膜炎は、小児から高齢者までさまざまな年齢で起こります。
ぶどう膜炎の原因は様々で、眼科以外の全身の病気が隠れていることもあります。そのため、他の診療科との連携が必要になります。
【ぶどう膜炎の原因】
大きく分けて、免疫異常が原因となる非感染性ぶどう膜炎と病原菌が原因となる感染性ぶどう膜炎の2つに分類されます。
- 非感染性ぶどう膜炎
ぶどう膜炎の原因となる病気の種類は、非常に多いです。その中でも、サルコイドーシスが約10%、次いで原田病が多いです。
- 感染性ぶどう膜炎
何らかの病原菌が感染することで起こります。
病原菌には、細菌・ウイルス・真菌(カビ)・原虫があります。
【ぶどう膜炎の原因の詳細】
サルコイドーシス(10.6%)、原田病(7.0%)、急性前部ぶどう膜炎(6.5%)、強膜炎(6.1%)、ヘルペス性虹彩炎(4.2%)、ベーチェット病(3.9%)、細菌性眼内炎(2.5%)、仮面症候群(悪性リンパ腫)(2.5%)、Posner Schlossmann(1.8%)、網膜血管炎(1.6%)、糖尿病虹彩炎(1.6%)など、診断不能(33.5%)
ぶどう膜炎の患者の約3人に1人が原因になる病気が分かりません。
原因が分かったぶどう膜炎のうち、約4人に1人が感染性ぶどう膜炎です。
【感染性ぶどう膜炎の病原菌】
単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、結核、梅毒、HTLV-1など
【ぶどう膜炎の眼合併症】
- 白内障
白内障は、水晶体という目の中のレンズが濁る病気です。普通なら、高齢になってから起こりやすいです。しかし、ぶどう膜炎の炎症が原因になることがあります。また、ぶどう膜炎の治療で使うステロイド薬が原因で白内障を起こすことがあります。
- 緑内障
緑内障は、眼圧が上がり、視神経が障害され視野が狭くなる病気です。ぶどう膜炎による炎症により眼圧が上がる又は治療で使うステロイド薬により眼圧が上がることにより、緑内障を起こします。緑内障は、現在、日本人の失明原因の第一位で、失明する可能性がある病気ですので注意が必要です。
【ぶどう膜炎の症状】
ぶどう膜炎は、虹彩・毛様体・脈絡膜という部位で炎症を引き起こす病気です。眼球の前から後ろまで、どこの場所でも起こる病気ですので、症状も様々です。
目が赤い、目が痛い、見にくい、まぶしい、ゆがんで見えるなど様々です。
このような症状があれば、眼科を受診して下さい。
また、無症状でも、他の科からの紹介などで見つかることもあります。
【ぶどう膜炎の検査】
ぶどう膜炎が疑われた場合は、どの部位まで炎症が起こっているか検査する必要があります。
眼底検査を含め、目の前から後ろまで眼球全体の検査が必要です。
細隙灯顕微鏡検査・眼圧検査・眼底検査・光干渉断層計(OCT眼底三次元画像解析)など様々な眼科検査が必要です。
散瞳検査(目薬で瞳を広げて、目の奥を詳しく見る検査)が必要な場合が多いため、お帰りの際に見にくくなることがありますので、車以外の交通機関又はご家族による送迎にて来院されることをお勧めします。
また、眼底検査で目の奥で炎症が起きている場合は、蛍光眼底造影検査を行うことがあります。腕から造影剤を点滴し、眼底写真をとることで、目の奥の血管などの状態をより詳しく調べます。
また、感染性ぶどう膜炎の中には、眼内液を採取してPCRが必要になるものもあります。
また、全身疾患が原因となることがありますので、他の診療科との連携が必要になることもあります。全身の感染症や免疫や炎症の状態を検査する必要があるため、多くの診療科が関係することがあります。
検査は採血や胸部X線検査、CT検査などが必要な場合が多く、疑われる疾患が絞られた場合は、特殊な採血や検査が必要となります。
【ぶどう膜炎の治療】
- 非感染性ぶどう膜炎
免疫異常などが原因となるため、免疫や炎症を抑える治療が必要です。
目だけの炎症の場合は、ステロイドの目薬や眼球へのステロイド注射が行われます。
全身疾患が関係する場合は、更にステロイドの内服や点滴が必要になることがあります。
また、免疫抑制剤(シクロスポリン)の内服や点滴を使うこともあります。
また、生物学的製剤としてTNF阻害薬が使われることがあります。ぶどう膜炎に使用できるTNF阻害薬は2種類で2007年に保険適応となったインフリキシマブ(レミケード)と2016年に保険適応となったアダリムマブ(ヒュミラ)で、病気によっては高い有効性が期待できます。
- 感染性ぶどう膜炎
抗菌剤や抗ウイルス薬により、原因となっている病原菌の治療を行います。
代表的なぶどう膜炎の原因であるサルコイドーシス、ベーチェット病、原田病について説明します。
【サルコイドーシス】
厚生労働省の特定疾患に指定されている病気です。
肺、皮膚、心臓、神経、骨、筋肉などあらゆる臓器に肉芽腫性病変をつくります。
自然によくなることもありますが、1~2割は治療しても治らないと言われています。
20代と50代以降に発症のピークがあり、特に50歳以降は女性に多いです。
目には、、日本人では60~70%で、ぶどう膜炎が発症します。
全身では、胸部X線写真でリンパ節腫大、血液検査や心電図検査で異常が出ることがあります。
皮膚や結膜に結節ができることがあり、その組織をとって病理検査で診断される場合があります。
ぶどう膜炎の治療は、ステロイド薬の目薬を使います。目の炎症が強い時や他臓器を含めて重症な時は、ステロイドの内服を行います。
【ベーチェット病】
厚生労働省の特定疾患に指定されている病気です。
口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮疹、、関節炎、消化器症状、神経症状など、いろいろな症状が出ます。
複数の症状を組み合わせて診断されます。
症状は、長い経過の中で新しい症状が出ることがあるため、診断が難しいことや、診断に時間がかかることがあります。
ベーチェット病の目の症状は、突然に炎症が出ることがあり発作と呼ばれます。網膜の強い炎症が繰り返されると、視力が低下して戻らなくなることもあります。
ベーチェット病を完治させる治療法はなく、発作を予防すること、炎症が出た時の治療をすることがメインになります。
目の炎症に対しては、ステロイドの目薬やステロイドの注射が行われます。
免疫抑制剤(シクロスポリン)の内服や点滴、生物学的製剤(TNF阻害薬)の点滴や注射を組み合わせて治療することもあります。
【原田病】
原田病は20~40歳代に多く、日本人に多い病気です。
皮膚や髪の毛が白くなる、耳鳴りや難聴などの耳の症状がでることがあります。
原因は各組織の色素細胞が、自己免疫によって攻撃されることで起こると考えられています。
診断には、眼科検査だけでなく、採血や脊髄液の検査や聴力検査などが必要です。
ほぼ両目同時に、ぶどう膜炎症状が現れます。特徴的な網膜剥離を起こしますが、滲出性網膜剥離という炎症によって起こる網膜剝離で手術が必要なものではありません。
眼科の検査では、光干渉断層計(OCT眼底三次元画像解析)と蛍光眼底造影検査が重要になります。
治療は、目局所にはステロイドの目薬が必要ですが、全身的なステロイドの点滴や内服が必要になります。ステロイドの使用量が多くなるため、ステロイドの副作用に注意が必要です。
再発を繰り返す場合は、免疫抑制剤や生物学的製剤(TNF阻害薬)の投与が必要な場合があります。
【患者様へ】
ぶどう膜炎は、聞きなれない病気かもしれませが、治療しないと視力を失うこともあります。
また、原因が全身の病気の場合があるため、他の診療科の検査が必要になることがあります。
治療は、原因により異なりますが、ステロイドの治療が行われることが多く、その副作用である白内障や緑内障にも注意が必要です。
最近では、生物学的製剤などの新しい治療も広がり、治療成績が上がっています。
聞きなれない病気ではありますが、失明するような重症なものも多いため、知っておくことが大切な病気です。